院長の独り言:その4
前回は、角膜に銅がたまって特徴的な所見を呈し、それが診断に非常に役立つという話をしました。
(院長の独り言:その3参照)
この病気以外でも角膜には、色々な金属や物質がたまることがあります。
例えば金です。最近では治療に使うことは減りましたが、関節リウマチの治療に金製剤といいまして金を含んだお薬を投与することがあります。その代表が、リドーラで、リドーラを長年内服してきた方を診察したことがあります。
角膜を詳細に観察しますと、角膜実質に少し赤みを帯びた非常に細かな点状の混濁が見られます(図1)。
図1.角膜実質に金の沈着が見られる。非常に微細な赤い色調の点として観察される。
これが金です。金が角膜内に沈着している所見です。金だからといって金色をしているわけではなく、生体内ではどうも赤いというかやや紫色の色調を帯びるようなのです。
話は余談になりますが、ベネチアンガラスもきれいな赤のものがありますが、あの赤色を出すのに金を用いると聞いたことがあります。だからこそベネチアンガラスが高いのだというのは本当かどうかは知りませんが、赤い色を出すのに金を混ぜるというのは、本当らしいです。
それと同じ理屈かどうかは不明ですが、金を含んだ薬を長期間内服しているうちに金が代謝されて角膜に沈着する際に、この色調を帯びたのだろうと推測されます。ちなみにリドーラは、今は使用されていないので、今後、リドーラによる角膜への金の沈着の患者さんを眼科で見ることはまずないとは思いますが、貴重な写真なので、ここに掲載しておきましょう。
金以外には銀も角膜に沈着することがあります。そして銅です。銅については前回述べました。金・銀・銅と何かオリンピックのメダルみたいですが、これらが角膜に沈着することがあるのです。興味深いですよね。
これ以外では鉄が有名ですね。
鉄といいましても鉄そのものでなく鉄分を含んだヘモジデリンという物質が角膜に沈着するのです。
余談になりますが、血が赤いのは、血液の中の赤血球の色がその源ですよね。
赤血球の中のヘモグロビンというたんぱく質が赤く、分子構造の中心に鉄があります。
角膜に鉄がたまるのは、正常の方でも見られます。
ハドソン・ステーリ線といいまして角膜の下方1/3のあたりに横に走る少し枝分かれした線として見られます(図2)。
図2.ハドソンステーリ線。矢印の所に黄褐色のラインが見える。角膜の上皮下のレベルに沈着している。
角膜の表層近くの上皮下あたりの深さにみられる所見で、かなりの頻度で見られます。
これにより視力が低下するということはありません。
これ以外に、色々な病気に関連してこのヘモジデリンの角膜への沈着は見られ、それぞれ名前が付けられています。
円錐角膜はフライシャー輪、翼状片はストッカー線、緑内障手術後の濾過胞のすぐ下にみられるフェリー線など。このように角膜自体やその周囲組織のとの間でカーブが変わるあたりに沈着が見られるようです。そして角膜の下方1/3のあたりは角膜表面の涙液膜が一番先にドライアップする部位ということも関連するかもしれません。
これら以外に、薬の内服により角膜に沈着するもので有名なのは、アミオダロン(製品名アンカロン)です。これは重症の不整脈の患者さんに投与されるお薬で、比較的よくみられます。猫ひげのような細かな線状の混濁が何本もみられるのです。色調はやや淡い黄褐色をしています(図3)。
図3.アミオダロンの角膜への沈着。中央に横に走る複数の黄褐色の線が見えます。
これが原因で視力低下することはまずないので、治療も不要ですし、お薬の中止も必要ありません。
これら以外にも角膜にはいろいろな物質が沈着することがありますが、今日はこれくらいにしておきましょう。
2019(令和元)年7月10日記す