先日、ある患者さんを診察しているときに、角膜(黒目のことです)の中央部は透明で基本的にはまったく問題がなかったのですが、両眼の角膜のごく下の方に、淡い混濁(濁りのことです)を認めました。角膜実質の比較的浅層ですが、ある程度の幅をもって角膜の周囲の円に沿って平行に見られました。そして輪部(角膜周辺の白いところの名前です)との間には透明な部分がありました。患者さんは、男性で40歳そこそこの年齢でした。これが、もっと年上のたとえば60歳、70歳代の患者さんであれば「老人環」という診断名が付くのですが、年齢が若いだけに「若年環」という診断名になります。若い人にこの所見が見られた場合、高コレステロール血症といって血液中のコレステロール、脂質が多いことがあります。それで何気なく、その患者さんに『血液検査でコレステロール値が高いといわれていませんか?』とお聞きしますと、びっくりされたように、『なんで分かったんですか?内科に行くたびに言われています。』と仰いました。理由を説明すると、納得されたようなお顔をされて、眼を見るだけでそんなことまで分かるのかと非常に驚かれたご様子でした。また、若くしてこの所見が出ている場合には、そうでない方に比べ、心筋梗塞などの心臓疾患になる確率が高いので、『心臓の病気にも気をつけましょう』とお伝えしました。


 ちなみにこの混濁は、角膜の中央部にまでは及んでこないので、そのために視力が低下したりすることはなく、何も支障はないので、治療の必要はありません。


 この例に限らず、いろいろな全身疾患が眼に現れることがありますので、我々眼科医は、眼だけを見るのではなく、その背景の体、全身をいつも見るつもりで診察をしています。


 角膜に所見が現れ、角膜所見でその疾患の診断が付くというのもあり、眼から非常に珍しいある病気を発見、診断したという話もあるのですが、それは、またの機会にお話することにしましょう。


                                                                                                  2019(令和元)年6月19日記す